2025年4月20日日曜日

Singing in the rain Out in the Street of London

そしてある日、雨の中で少年がその歌を唄っている時、

ある20代後半の女性が、傘を差しながらもその少年の歌をじっと聴いていた。。

彼女もまた、少年と似たような思いをしたことがあったからだ。


そしてその少年の歌を聴いて彼の人生を思った。。

「この子もまた自分と同じような悲しい経験をしたのかもしれない。。」と。


お姉さんは綺麗なトレンチコートを着て、

仕事場へと向かう途中だった。

彼女の働く職場は煌びやかであった。

無数の金持ちたちが集い、そのお金を優雅に使う場所。


そんなブティックやファッション業界のデザイナー事務所やモデル事務所の

立ち並ぶCovent Gardenの街角にあって、

少年の歌や存在はとても対照的であった。


その業界の人々は皆、関わることを避けていた。

「ああまた、あの小汚いジプシーの子が唄ってる」とでも

思っていたのだろうか。


その唄は、しみったれたロンドンの

幾重にも重なったどんな光も通さないような分厚いグレーの曇り空に

ある意味、よく似合っていた。。

「観光客」が聴きたいような

" Top of the Pops " で演奏されるような流行りの「ポップソング」ではなかった。

そして誰もが足早にその前を通り過ぎていく。


そんな情景がまた彼女の胸を打った。

時々そうやって立ち止まって遠くから歌を聴いて、

その後、通る時には少し小銭を置いていった。

でも少年はまるで目が見えないかのように

彼女の存在を見ないようにして宙を向いて歌い続けた。

「泪がこぼれ落ちないように。」と

心の中で憐れむ自分自身に言い聞かせながら。



" Out in the streets "
Asylum





そしてその日も、少年はひとしきり歌い終わると、

いつものようにほとんど空に近い目の前に置かれた散らばった小銭を拾い集め、

下を向いて、近くのグロッサリー・ストアへと向かった。


そこの店主は意地悪で、

そうやって観光客から「稼いでる」小汚い浮浪者たちが大嫌いだった。

そして少年が一度猫を抱いて入店しようとすると、

「病気にでもなったらどうするんだ。汚いから外に置いて来い。」と

顎を使って、指図した。


白猫は特に神経質だったため、

外に置かれると、外の人間たちに怯えすぐにどこかに行って隠れてしまう。


そして少年がいつものように猫を外に置いて店に入って買い物をしようとすると、

小銭を数えたら、1ペニー足りなかった。。


いつものイギリスの中であれば、1ペニーくらいまけてくれるのが当たり前のようだったが、

この店主は意地悪をして1ペニーでも足りなければ商品を分けてくれなかった。


「今日はこれしかないんです。」と少年が悲しげにいうと、

「明日また持ってこい。」と言って、少年を無視した。

少年は泣きそうになって外に出たが、猫はまた路地裏の方に隠れて行ってしまっていた。


そして少年は店の少し前の地面に座って、声を出さずに下を向いて泣いていた。

するとあのさっきのよく歌を聴きにくるお姉さんが声をかけた

「どうしたの?」と。

すると少年は「お金が足りなかったから買えなかった。」と小声で言った。

そして女性は少年の手の中に「2ポンド」のコインを握らせ、

自分はその店の中にズカズカと入って行った。


少年は少し怯えてそれを見ていた。

また今度は店主が少年に何も売ってくれなくなっても困るからだ。


女性は店主に荒だった様子で、「さっきこれぐらいの少年が来ませんでしたか?」と

少年の背丈ぐらいを腕で示して店主に差し迫った。

すると店主は少し驚いた様子で「ああ、来たとも。」と言ってみせた。


女性は「何を買いに来ましたか?」と聞いた。

すると店主は、遠くにある棚を指差して、

「あの保存の効く牛乳のパックだよ。」と言った。


そしてそれを掴んで女性はまたキャッシャーに戻ってきて

「いくらですか?」と聞いた。

「1ポンド99ペンスさ。」と言った。

少年が持っていたのは今日は1ポンド98ペンスだった。


「なんてことをこの人はするんだ」と思って

商品代をきっちりと払った後、女性は腹が立って外に出た。

少年の姿はもうそこにはなかった。

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